距離マーケティング番外編 顧客だけじゃない。社内の接点も「距離」で考えられるかもしれない

今回は番外編のようなコラムです。
普段は、近距離・中距離・遠距離という切り口で、マーケティングや顧客との接点について書くことが多いのですが、今回はその考え方をあえて社内に持ち込んでみたいと思います。
テーマは、社内政治です。
社内政治、という言葉にはあまりいい印象がありません。
根回し。
派閥。
空気を読む。
上に気に入られる。
どこか不健全なもののように聞こえます。
でも実際に組織で働いていると、思うことがあります。
問題なのは社内政治があることではなく、
社内の接点を設計せずに、正しさだけで場を動かそうとすることなのかもしれない、と。
私は普段、マーケティングを近距離・中距離・遠距離という3つの距離で考えています。
この考え方は、組織の中にもかなりそのまま当てはまる気がしています。
たとえば、毎日の挨拶や雑談、1on1、飲み会のような接点。
普段の会議やSlackでの発言、日常業務でのふるまい。
全社会議での発表や社内報、全体メッセージのような接点。
社内政治とは、権力争いというより、
場を前に進めるために、どんな接点をどう整えるかの設計として捉え直せるのではないか。
今日はそんなことを書いてみます。
社内政治がしんどく見えるのは、「人間関係のゲーム」に見えるからだと思う
社内政治が嫌われやすいのは、それが
「誰が誰に気に入られているか」
「誰がどことつながっているか」
みたいな、人間関係のゲームに見えるからだと思います。
たしかに、そういう側面がゼロではない会社もあります。
でも、もう少し丁寧に見てみると、組織の中で物事が進むかどうかは、単純な好き嫌いだけでは決まっていません。
この人の話なら聞いてみよう、と思えるか。
この人の提案なら、一回考えてみようと思えるか。
この人が言っていることなら、現場でも支えられそうか。
この人がやろうとしていることの意味が、少し広い範囲に伝わっているか。
そういう小さな接点の積み重ねが、実際にはかなり効いています。
だから社内政治を、ただの駆け引きとして見るのではなく、
提案や意思が届くための接点の構造として見ると、少し見え方が変わります。
近距離は、正しさより先に「安心」をつくる
まず、近距離です。
毎日の挨拶。
ちょっとした雑談。
ちいさな気遣い。
1on1や飲み会でのやりとり。
こういうものは、一見すると仕事そのものとは関係がないように見えます。
でも実際には、ここでかなり大事なものがつくられています。
それが安心感です。
人は、正しい人の話を必ず聞くわけではありません。
でも、安心できる人の話は聞きやすい。
この人は感じがいい。
この人はちゃんとこちらを見ている。
この人は、いきなりぶつけてくるのではなく、関係を壊さずに話そうとしている。
そういう感覚は、案外ばかにできません。
場を進めるうえで、近距離は
「この人の話なら、一回受け取ってみようかな」
という土台をつくります。
逆に、ここが弱いと、どれだけ正しいことを言っても、受け取り側は身構えやすくなります。
内容の前に、温度で弾かれる。
組織ではそういうことが普通に起きます。
だから近距離は、媚びるためのものではなく、
正しさが届く前提をつくるための接点
だと捉えた方がいいのだと思います。
中距離は、「この人はちゃんとしている」という認知をつくる
次に中距離です。
普段のMTG。
Slackでの発言。
定例でのコメント。
日常業務のふるまい。
ここでは近距離のような温度だけでなく、
仕事の進め方や考え方が見られています。
この人は論点が整理されている。
この人は人の話をちゃんと受けている。
この人は感情だけで押さない。
この人は現場も見ている。
この人は、ただ賢いだけでなく進め方がうまい。
そういう認知は、だいたいこの中距離で形成されます。
社内で提案が通るかどうかは、提案の中身だけではなく、
その人が普段どう見えているかにもかなり左右されます。
急に出てきた提案が通りにくいのは、案が悪いからとは限りません。
単に、その人の仕事ぶりやスタンスが、まだ十分に見えていないだけかもしれない。
だから中距離は、
「ちゃんとしている人」
「一緒に進めやすい人」
「話を聞く価値がある人」
という認知をつくる場所なんだと思います。
そしてこの認知は、近距離でつくられる安心感と組み合わさることで、かなり強くなります。
遠距離は、個別の信頼ではなく「意味」を広げる
そして遠距離です。
全社会議での発表。
社内報。
全体向けのメッセージ。
部門をまたぐ場での共有。
ここでは、近距離のような親しさも、中距離のような日常の仕事ぶりも、直接は伝わりにくいです。
その代わり、遠距離でつくられるのは
意味づけや物語です。
この人は今こういうことに取り組んでいる。
このチームはこういう課題に向き合っている。
この施策は、こういう意図でやっている。
そうした意味が、広く認知されていく。
遠距離の接点があると、個別には接していない人にも
「なんとなく知っている」
「最近こういうことをやっている人だ」
という認知が生まれます。
これは、場を進めるうえでかなり大きいです。
なぜなら、組織では完全に無名なものは通りにくいからです。
知られていない提案より、少しでも文脈が共有されている提案の方が通りやすい。
だから遠距離は、目立つためのものではなく、
自分やチームの取り組みに意味の文脈を与える接点
として使えるのだと思います。
どれか一つだけでは、場は進みにくい
ここでおもしろいのは、近距離・中距離・遠距離のどれか一つだけでは、組織は意外とうまく動かないことです。
近距離だけ強い人は、感じがいいし応援もされる。
でも、仕事の解像度が見えていないと、広がりにくいことがあります。
中距離だけ強い人は、仕事はできる。
でも、安心感や温度が足りないと、周りがついていきにくいことがあります。
遠距離だけ強い人は、発信はうまいし意味づけも上手。
でも、近くの人との関係が弱いと、実行段階で支えられなくなることがあります。
つまり、組織を動かすには
安心があり、仕事が見え、意味が広がる
という3つが少しずつ必要なんです。
社内政治を接点設計として見ると、このバランスの大切さが見えてきます。
社内政治とは、「通す技術」ではなく「進む土壌」をつくることなのかもしれない
社内政治というと、どうしても
「どう通すか」
「どう勝つか」
という方向に寄りがちです。
でも、本当に大事なのはそこだけではない気がしています。
むしろ、社内政治を
何かを無理やり通す技術ではなく、場が進みやすくなる土壌をつくること
として捉えた方が、ずっと健全です。
毎日の近距離で安心をつくる。
普段の中距離で仕事を見せる。
必要な場面で遠距離に意味を届ける。
この積み重ねがあると、提案は通りやすくなるし、協力も得やすくなるし、何かが始まったあとも支えられやすくなります。
逆に、この設計がないまま正しさだけで押そうとすると、場は動きにくい。
組織で物事が進まないのは、正論が足りないからではなく、
届くための距離が整っていないから
ということは、案外よくあるのだと思います。
まとめ
今回は、少し番外編として、距離マーケティングの考え方を社内に持ち込んでみました。
社内政治は、勝つための技術ではなく、
場を進めるための接点設計として捉え直せるのではないか。
私はそんなふうに考えています。
毎日の挨拶や雑談のような近距離。
普段のMTGやSlackのような中距離。
全社会議や社内報のような遠距離。
この3つの接点の中で、
- 安心をつくる
- 仕事を見せる
- 意味を広げる
ということが起きている。
組織を動かすのに必要なのは、正論だけでも、根回しだけでもない。
どんな接点を、どんな距離で、どう整えていくか。
その設計が、場を少しずつ前に進めていくのだと思います。
社内政治という言葉が苦手でも、
それを「接点設計」と言い換えると、少しだけ健全に向き合える気がしています。


